楽器

古代の音楽は、
自然への崇拝であり、人々のコミュニケーションの手段であった。

人の出せる声には限界がある。
もっと力強く多様な音を出すべく、身近な石や貝、葦や竹
動物の皮を使って楽器を作るようになった。
また、古代人にとって楽器は単なる発明品ではなかった。
文化の違いを超え多くの楽器が神話と共に伝えられているからだ。

最古の楽器と考えられているのが、およそ2万年前の地層から発見された
中空の鳥の骨に穴を開けた笛や、マンモスの頭蓋骨を用いたドラムなどである。

もっとも原始的な音楽表現のひとつは、何かを叩いてリズムを刻むという行為。
まず、自らの肉体、硬い石、動物の骨、ひょうたんや竹、木の実や貝殻などを叩いていた。
何らかの物体を叩き、打ち、あるいは振って音を鳴らす道具を打楽器と分類する。

打楽器は、
主にユーラシア東部、南部で発達し、様々な儀礼に用いられた。
一方
西洋では打楽器はそれほど発達せず、東洋から取り入れた。
楽器のほかに、時刻を知らせたり、軍隊を動かす合図などにも用いた。

古代エジプトの巫女が持つシストルムはU字型の枠に渡した細い棒に
金属の薄片を通した祭祀用の楽器だった。
中国では殷代末期には音階を調律した鐘を組み合わせた鐘楽が演奏されていた。
円盤形の金属板をばちで叩く銅鑼やジャワのゴング、日本の雅楽の鉦鼓なども
中国をルーツとする。
古代インドでは太鼓の種類が多いだけでなく、多彩な音色を打ち上げる高度な奏法が特徴。


管楽器とは、
風を利用して奏でる楽器。
楽器の外側から空気を取り入れ、振動を起こして音を作り出す。
多くの場合、演奏者の呼気を利用する。
息の強弱、指穴の位置や管の長さを調節することにより、表情豊かな
メロディーラインを奏でられる。
吹き口を持つ管という共通点だけで、形状はさまざまある。
バグパイプやアコーディオンも管楽器の部類に入る。

古代エジプトやギリシャでは縦笛を演奏する姿が様々な遺物に描かれているが
1つの吹き口で2本の管をまとめて吹いている姿が少なくない。
この双笛は、古代ギリシャでは、アウロスと呼ばれ、50センチメートルほどの
葦や象牙製で現代のオーボエに近いリードを用いていた。
力強い音が出るだけでなく、複数本吹くことで、和音や複雑なメロディーを
吹き分けることができる。
とくにディオニソスの祭礼では欠かせない楽器で、スパルタでは兵士の
行進の伴奏に、アテネでは軍船の漕ぎ手の拍子取りにも使われた。

ギリシャ神話に登城する牧羊神パーンの用いた笛の伝説で知られているのが
長さの違う管を並べて数種の音を出すことが出来る管楽器。
彼がシュリンクスというニンフに求愛すると、彼女は逃げ出す。
パーンが追いかけ、川辺まで追い詰めると、彼女は葦に姿を変えてしまう。
パーンはシュリンクスを偲んで、いくたりかの葦を束ねて吹いた。というもの。

南米アンデスの民族楽器サンポーニャもこの系統の楽器。
中国では竹を束ねリードをつけた笙となり、これが日本に伝わった。

ラッパはリードを必要としない管楽器の俗称で、トランペットなどが代表的。
先史時代からその原型は各地で作られており、ツタンカーメンの王墓からも
発見されている。
古代ギリシャやローマでは軍隊を動かす際に用いた。
当初は長いまっすぐな金属の管を持つ形容だったが、ローマ時代に
体に巻きつけるコルヌという楽器が誕生した。

管楽器は木管楽器と金管楽器に区別される。
楽器の素材で見分けられそうだが、そうではない。
唇の振動で音を吹き分けるものを、金管楽器
それ以外の笛類やリードを用いるものを木管楽器という。
たとえば、現在のフルート
素材は金属製だが、奏法から木管楽器になる。



管楽器
楽器の発達には、地域や文化による差が大きく、管楽器はその最たる例と
言えるかも知れない。

複数の管を1つの楽器として演奏することが出来る鍵盤楽器は
管楽器から枝分かれし、独自の発展を遂げたものだ。
水圧やふいごなどを動力とする技術は、紀元前3世紀に発見され
古代ローマでは鍵盤を備えたオルガンが用いられていた。
14世紀のイタリアでは、弦楽器に鍵盤を応用した楽器が登場。
ピアノは18世紀末に登場した、いわば新参者だそうだ。

弦楽器は、
奏者の技術と知識が要求される、知的な楽器。
弓の弦を爪弾いたのが始まりではないかと言われている。
楽器として用いられるようになったのは、打楽器や管楽器よりは遅い。

シュメールや古代エジプトの弦楽器は、当時から精巧な構造を持っていた。
石や植物をたたいたり、吹き鳴らすことで、半ば自然発生的に生み出された
打楽器、管楽器に対し、人の手になる道具から発達した弦楽器は、音の
美しさや芸術性を追求される宿命を持っていたようだ。

王の寝室や密やかな祭儀などの当別な機会に活躍した。
だが、1本の弦からもたらされる音量は、高が知れている。
最大の課題はいかに大きな音を出すことが出来るか・・
指や爪で弾く、ばちで打つ、弓でこする・・などの他にも
いかに共鳴させて響かせるか、などの改良がなされた。

紀元前3000年頃のメソポタミアの遺跡から出土した粘土板は
ハーブを表すとされる文字が含まれており、同じ年代のエジプト、インダスでも
ハーブに似た楽器の記録がある。

弦の数も多く大きな共鳴器を持つハーブは演奏家の手腕が必要とされる
楽器だったが、古代世界で愛された、もう一つの弦楽器、竪琴(リラ)は
比較的素人でも演奏しやすく、携帯用のものも作られた。

リラは共鳴する胴部に留めた弦を横木に渡して、弾くものでギリシャ神話では
ヘルメス神が亀の甲羅と干からびた腱から作ったとされる。
現在では幻の楽器となってしまった。

紀元前8世紀に中近東で誕生したとされる、リュートは、ギターの姉妹楽器。
胴体につけた首から張った弦を押さえながら、弾くリュート系の楽器は、
土地や時代によって非常に多くの派生系が生み出された。
携行が容易で伝播もしやすかったのだろう。

西洋では動物の腸、東洋では絹糸、インドでは金属の糸と弦の材質が異なり
その音色は民族色豊かだ。
現在のバイオリンやチェロは、中世ヨーロッパでリュート系楽器の弦を
弓でこする奏法が用いられたことから発展した。


世界の珍楽器
オセアニアでは大地を太鼓代わりに鳴らす、打楽器がある。
砂の下に大きな空洞を作り音の出入り口となる2つの通気穴を開け
穴の一方で手や木の葉を鳴らして共鳴させるというもの。
また土の中に横倒しに埋め込んだ大木を7人の猛者が重い木塊で一斉につくという
ものもある。
地鳴りのような不気味な音を出す。

石器時代から存在するうなり木も音は不気味。
長い紐の先に板切れをつけて振り回すもので、その速さで音程を変えることが出来る。
超自然的な音が出るということから、ひみつ結社の儀礼や雨乞いなどに使われた。

中国時代の雅楽器の祝と?(ギョ)も変わっている。
祝は木箱につき棒が刺さった形で、演奏の冒頭にドドドンと9回鳴らす。
?は白虎の木彫り像で背中にギザギザがあり、演奏の終わりにこの背中を
ささらでザザッとなでる。
出番はそれだけという、あっさりした楽器^^