長月様がWIND BASEMEMNTを主宰なさっていたときに、
天河祭で頂いたSSです。











「イルバーニ様、歌って下さいな」

「イル」

「…」



結婚式だ。  

まさか、こんな日が来ようとはな。



イルバーニは、いつもより着飾った服で座っていた。  

横には、花嫁。    

イリーシャ。 

じっと私を見ている。  

二人の馴れ初めなど、出席者が一通り話した後の事だった。

私は聞いてなかったが、新郎新婦より、

ご来賓の方々へと言われては  仕方が無い。

イリーシャは、大勢に話すのは駄目だから。    

でも、私が、ここで歌うのはどうかと思うぞ  

心の中で呟いてみた。

しかし、彼女の瞳が物語る。  

聞きたい、と。

ああ、そう言えば、まだイリーシャには私の持ち歌は、聞かせてなかったか。 

彼女が一番歌うのは、日本の歌。

それは私も歌える。  


いつもは其れを歌う。

しかし、ここはやはり祖国アッシリアの歌でも歌おうか。

「イリーシャ、何がいい?」

「ユーリ様のアルザワ戦で、旅芸人してた頃の恋歌」

きっぱりと言う。

「…本当にそれが聞きたいのか」

「はい」    

あわわ。

ユーリ様以外は、やばいぞ、という表情になった。  

普段なら、叱り付ける。

しかし、今は、いいさ。

ふっ、と彼の瞳が和んだ。

イリーシャは、すかさず包みを取り出した。

彼愛用の、楽器。  

彼は、椅子に座わり、かき鳴らす。

「なつめ椰子の木陰で…」  

イリーシャは、身じろぎもせず、聞き入る。  

歌い終えて、割れんばかりの拍手が辺りに響くと。

彼は、彼女を抱き締めた。  

そして、結婚指輪を、そっと嵌めさせ。  

永遠の誓いに口付けを交わす。

突然の事で、目を白黒させたイリーシャは。

これからは、私をおいては旅をしないで下さいと言うのが、

せいいっぱいだったそうな。  

吸い込まれそうな、其の蒼い瞳に乾杯。  

緑の指輪が輝き始めた、一日でした。