勿忘草が謡いだす




髪が風に揺れて
( くすぐ ) ったく頬に悪戯するように
運命が私の心に触れた

私の心は不安定で
まるで定まらないあの雲のように
愛の形も変化していく

季節が移り、移ろいでいく

乾いたあの風の
肌を焦がしていくあの陽射しの
空一面に散らばる金平糖のような星の
全てが愛しかった時間が過ぎていき
私は広い砂漠にポツリと孤独に立っている

昼間は駄目ね、蜃気楼が私の心を騙すから
探すなら夜がいい

シンと静まりかえる月夜の灯りで
遠くまで遠くまで地平の先を見渡すの
邪魔するものは何もない
ただ少し静か過ぎて怖いけれど…

一抹の不安をオアシスに置いていこう
砂漠を潤す恵みの泡となって、きっと泣き言なんて忘れるはず
一握りの砂をビンに詰めて
思い出もそこにそっと仕舞って置くの
一粒一粒に悲しみや喜び
辛いこと、楽しかったことが一杯沢山詰め込まれてる

流れ星が落ちてくる

あの星のあの輝きは
長い歳月さえも越えて私の胸で光り続け
空と大地を繋ぐ雨がこの乾燥した砂漠に降り注ぐ日

こっそりと内緒の話をするように
私と貴方の逢瀬を語る










耳の奥で懐かしい声が囁いた
馴染みがあり、それでいて愛しい音

私の心を掴んで離さない唯一特別な…
優しく呼ぶ、私の名前
幾つあの人から「愛してる」を貰っただろう

数え切れない思い出と
頬や唇に触れるキス

誰も知らない貴方の冷たい手の温度の理由や
子供の名前を付ける時に一晩中悩んでいた王としてではなく
父親としての姿

私だけが知っている貴方を…
思い出は魂に刻まれ、蓄積しても変わらない



「約束したよね…」

「え?何か言った?」

「……か、…」

「お姉ちゃん!?」

「はっ…え、エイミどうしたの?」

「それはこっちの台詞だよー…もう、いきなりボーっとして
 吃驚 ( びっくり ) したんだからね?」

「ボーっと?嘘、覚えてないや」

「もう、しっかりしてよね。教授も直ぐに来るって」

「はいはい…」



全く最近いつも呼び出される
しかも明らかに学生が習う範囲じゃない知識を要求するんだもん
ちょっと気が引けるよ

行きたくないなー…
でも行かないわけにはいかなくて
拒否権の持たない私は溜息をつくしかない

大体、モルゲンレーテって中に沢山の技術師がいるから
お堅い雰囲気で息をするのも気を使って疲れる

本国のモルゲンレーテだったら
きっとコーディネータも結構いるんだろうけど
こんな宇宙の端っこにあるようなコロニーの研究所に
コーディネータが移住してくるなんて滅多にない

ここの技術師も教授も
あたしのコーディネータである能力や知識が欲しいだけで
本当はお気に入りなんかじゃないんだよね

エイミは笑って
「気に入られてるんだよ、良かったね」なんて言うけど
本当はカトー教授もあたしのこと嫌な目で見てくるときあるんだ

オーブ権のコロニーだからって
ナチュラルとコーディネータの差別がないわけじゃないんだ
息苦しいよ

エイミだってナチュラルだし、パパもママもナチュラルで
家族であたしだけがコーディネータ

最初あたしもナチュラルだって思ってたらしいけど
コーディネータだって分かると教授の顔色が
変わった時のことを今でもよく覚えてる
こう言う時、記憶力が良いのが恨めしいな…

舐めるような視線
その瞳の奥に見えた憎悪や嫌悪
遺伝子を弄って作られた存在のコーディネータに対しての
嫉妬と恐れ、深い負の感情が入り混じっていた



「お姉ちゃん、私ママとパパの所に顔出して来るね」

「うん、わかった」

「マリエお姉ちゃんもいるかな?」

「今日は仕事だって言ってたし、どっかにいるんじゃないかな?」

「ママに聞いたら分かるかな?最近忙しい見たいで家に帰って来ないし…」

「最近仕事場変わって忙しいみたいだね…」

「何かママの話だと極秘開発部らしいよ」

「へー…そうなんだ」



パパもママもマリエお姉ちゃんも本国で技術開発部で仕事をしていた
でも、突然このヘリオポリスに移動になって
あたしたち家族は引っ越すことになった

最初はエイミやマリエお姉ちゃんは
コロニーの地球とは違う重力に慣れてなくて
地球に帰りたいと嘆いていることもしばしばあった

パパやママは何度か仕事で宇宙に出てたから
もう慣れて、仕事をすぐにこなしてた
あたしはコーディネータだからすぐにこの重力に適応できた

マリエお姉ちゃんはナチュラルの中でも優秀で
重力に慣れて来ると新人なのに
大きな仕事をしているのは夕食の時に話していた
だけど、極秘開発部に移動したなんて話は始めて聞いた

危なくないといいけどな…
最近、ラボにいて妙な噂を聞くんだ
「地球軍がこのモルゲンレーテで開発を行っている」って話

中立国のオーブがそんなこと許すはずないから
きっとその噂も嘘なんだろうけど
戦争が激化していく中、オーブに兵器を輸出して欲しいとの声が高まっていた

特にナチュラルは技術でコーディネータに劣っている為
オーブのモルゲンレーテにいるコーディネータの技術力を欲している



「あたしも良いように使われてるだよね」



道具のようにしか思われてないのかな?
何であたしナチュラルじゃなくて
コーディネータで生まれてきたんだろ?

別に皆と同じナチュラルで良かったのに…
そしたらこんな思いせずにすんだのに…
 


「ダメだよね、暗くなってちゃさ」
(叱られちゃうし、きっと皆心配させちゃう)



これは絶対ママには聞けない
何か事情があってあたしをコーディネイトしたんだろうし
小さい頃に純粋に不思議で聞いたことがあったけど
「ごめんね」って悲しい顔で言われた

いつも明るくて、絶対あたし達に悩みとか言わないママが
その質問で泣きそうな顔をしたから
この事はあたしがお墓に入るまで秘めておこうって決めたの



「暇だし、パソコンでもしよっかな」



ラボに置いてある一つのパソコンは
既にユーリ専用パソコンになっていた
ユーリが使い易いように色んな所を弄っているから
普通の人じゃ使い難くなっていた



「あれ?何だろ?」



ヘリオポリスの周りを
土星の輪みたいにくるくる回っている小さな球体は
周囲に異変がないかを一日も欠かさずに観察して
ヘリオポリスに突然の襲撃がないように守っている

その自動カメラに映る映像を管理するコンピュータに入り込むのが
ユーリの日課だった
得に落ち込んだりした時は
こうして宇宙の映像をみて、心を落ち着かせる

だけど今日はハッキングをしていると
自分とは違うコードが引っ掛かっているのがわかった
自分のように趣味で利益を得ない外衛映像管理室のコンピュータに
リスクを背負って進入するのはまずない

おかしいな…
ユーリはキーボードに指を滑らしていく



「嫌な予感がするよ…」



杞憂に終わればいいけど
こう言う時、自分の感はよく当たる

ラボ内には数人の研究者がいたけど
そんなユーリの行動を気にする人はいなかった

それに今日は何だかラボにいる技術者の人数も少なくて
殆どが出払っているようだった
残っているのは派遣で来ているような新人とかばっかで
ユーリが始めて見るような人も沢山いた



「これって……!」



不審なコードを辿っていくと
妙なところに行き付いた
それに形跡を見ると、映像をすり変えている

何でそんな必要があるのかと
今度はすり変えている映像を外して本来の映像を探し出す
これには結構手が折れた
本来の映像を管理している部分を向こうに占領されていて
進入するにもかなりのやり手らしく
なかなか厳重にトラップを仕掛けていた

そして映し出された映像に二つの艦隊が映し出された
恐らく形からしてザフト製

このオーブコロニーに攻めてくると言うのだろうか?
中立国のオーブにザフトが攻めてきて不利になること何て一つもないはず



「何が起こってるの、こんな…」



逃げ出す時間くらいあるだろうか?
でも、もしかしたらこのヘリオポリスに補給で訪れているのかもしれない
でも、だとしたらヘリオポリス側はそれを知っている訳で
映像を書き変える必要がない



「どうしよう…」