勿忘草が謡いだす




ヒトは誰もが「それ」と戦う時が来る

「何故自分だけ」
「何故自分が存在するのか」

誰の中にも在る心に住みつく闇

否定、矛盾、真実、在りか、他人との距離と己の意味
迷い、戸惑い、答え、傷付き、彷徨いながらも
手探りで縮めていく心(自分)と心(他人)

導かれる自分の役目と価値

そしてその時人は始めて世界を見つめる
見つめながら二つの選択をしなければならない

戦うか、諦めか…

運めの渦に人は呑み込まれ、過去に手を伸ばし焦がれながらも
自分にはどうすることの出来ない地球の引力に似た力に
現在、未来へと押し込まれる

漂い、人は時の流れに恐れを抱きつつ旅立つ
果てなく、それはまるで宇宙のような…




時代は遥か未来
ユーリはヒッタイトの地で眠りに付き、そして魂は来世へと運ばれた

温かい殻に包まれ、転生を望まれ、そして何度目かの生を
神によって与えられる
殻を突き破った先の光と闇が待ちうけている地上へと
ユーリは自ら飛び立っていくのだ

幾度と魂は転生を許され、神はまたユーリの魂へと問う
何故転生を望むのかと…

そしてユーリの魂は決まって、転生の度にこう答えるのだ


「約束した人がいるんだ、生まれ変わってもまた会おうって」


でもまだ会えていない
もうこれで何度目だろうか?この神の前に来て、世に送り出されるのは…

誰に会いたいのか、本当は私も良く分からないんだ
それでも、死ぬ間際に思うのは「また会えなかった…」って言う後悔だけで
次こそは!って思いながらこの場所に辿り付く

白い狭間、転生を望むか、このまま天界へと上るか…
天界に行ったら、私は全て忘れてしまうんじゃなかって
約束を覚えていなくなっちゃうんじゃないかって不安で
やっぱり地上でしか彼との約束を果たせない気がしてた

彼が天界へ上っているとも限らない
だから、私は地上で待つ事にした

幾ら待ってもいい
きっと彼と会えるって信じてるんだ

だけど、前回の転生でも「彼」と出会えずに
一人孤独に思い馳せる地を懐かしく感じながら
この狭間に辿り付いてしまった
次こそは魂が心から叫び、呼んでいる彼の元へと…


「では、ユーリ…行きなさい、今度こそ約束が果たせるように」

「うん、行ってくるよ」


光に包まれて、ユーリは地上へと旅立っていく
段々と記憶が薄れていって、思考も定まらない真っ白な場所へ…

この瞬間好きだな
そんな呑気な事を考えながら、またユーリは生まれ変わっていく

ユーリの想いは運命を引き寄せる

ゆっくりと、空に漂う雲のように
だけど形を無くして頭上を通り過ぎる悪戯な雲…


「こんな雲、嘘ものじゃないか」


時代はC.E
まだ女性へと変化を遂げてない幼げでいて
何処かまだ中性的な雰囲気を持つ少女が一人
広場の芝生の上へと寝転んでいた

空を見上げてはいつも決まった台詞を呟いて
煩わしそうに空から視線を外す
芝生に触れるが、やはりここも造り物

自然で強く強く育った芝生じゃない
虫一匹この芝には住んでいないのだ
この空だって、ただの映像で、本物の空じゃない


「地球に帰りたいよ…」


何で自分はこんな所にいるんだろうか?
親の仕事の都合で一年前からここに住み始めた

だけど、ここにユーリは愛した空も土も、風も存在しない
天候はいつだって晴れが殆どで、雨が降るときはあの天井から
水を降らせるだけで、地球の涙は降って来ない

ここじゃない
そう感じる

私が生きたい場所はここじゃなくて、重力のある場所
心がそういっているのが感じる

(ここじゃないんだ、私が生きたい場所は)

でも、きっと一人でその場所へ行っても悲しいだけで、
誰かを自分は求めている
誰だったのかはわからないけど、確かに呼んでいる


「あー!もう、またこんなところにいて!探したんだからね、お姉ちゃん」

「エイミ、ごめーん」

「全く周りは戦争で慌しいのにお姉ちゃんたら呑気なんだから」

「また、戦争起きたんだ?」

「うん、華南って所らしいよ」

「本土から結構近いね」

「まぁ、でもさ!オーブは戦争なんて関係ないよ」

「そ、…だね」


でもね、何か戦争って聞く度に胸が苦しくなるんだ
妙な胸騒ぎがして、耳を塞いで、何も聞きたくなくなる

得にこの「ヘリオポリス」に移住してからは、息苦しさまで感じた

関係ないなんてどうして言えるんだろう
沢山の人が死んでいるのに、私たちはそれを知っているのに
見ないふりをしているだけじゃんか

ズルイよね、そんなのさ
命がけで戦っている人も居れば、そんなの知らないと
顔を背ける人も居るんだから…



「あ、お姉ちゃん!そう言えば、教授が呼んでたよ」

「えー…また?」

「仕方ないよ、だってお姉ちゃん首席だから気に入られてるんだよ」

「そーかな、こっちはいい迷惑だけど」

「まぁまぁ、ほらさ、そんなこと言ってないで行こうよ」

「はーい」



ユーリは立ち上がり、足についた草を手で払う

その瞬間何か予感がした
頭に直接訴えてくるような…でも確かな予感で、何だか気味が悪かった

運命が直ぐ傍らで待機している



***



宇宙を漂うナスカ級、その一室で静かにカイルは
報告が来るのを待っていた
予定よりも少し早める必要がありそうだなと、
先程コロニーに潜入をしているルサファから連絡があった

地球軍に動きが見られたと
恐らく、「G」を運び出しているのだろう

今回の作戦はその「G」を奪取、又それが可能でないのなら
破壊と言う目的だ
あれが地球軍の手に渡れば、その資料から大量に「G」が量産され
ザフトの勝利が危うい物になってしまう



「ムルシリ隊長、作戦決行まで一時間を切りました」

「準備は整っているのか」

「はっ、既に工作員は全てコロニーにて待機中です。
後は我々の合図を待つのみです」

「パイロットは?」

「搭乗機にて待機しております!」

「ほう、確認はとれたか?」

「それなら先程通信を開いて私がしておきましたよ、隊長」

「イル・バーニか…よい、ご苦労、お前も位置につけ」

「は!失礼します!」



報告に来た緑服の青年は敬礼をカイルに向けると、
機敏とした軍人らしい動きでブリッジから出て行った

それを確認すると、カイルは溜め息を付く
どうも先刻から落ち着かない、何かがずっと自分に纏わり付いて
その疑問が自らの中で消化しきらない、歯痒いのだ

重要な作戦を前にして指揮官の自分がこんな状態では
成功するものも仕損じてしまう
しっかりしなくては…


「どうかなされましたか?」

「いや、対したことじゃない。それより作戦を少し早める必要がありそうだな」

「ほう?ルサファから連絡が?」

「ああ、地球軍に動きが見られたらしい。予定を三十分早める」

「かしこまりました、ではそのように伝えましょう」



一礼をして、イル・バーニも作戦へ向けて動き始める
だが、何故だろう?自分が今どう動けばいいのか、
カイル自身では分かり兼ねていた

ここで命令を出し、作戦を成功へと導く事が自分の仕事だ
そして、ジッと作戦の成功を待つ事も

なのに、何故かジッとしていられない
心の奥で何かが共鳴しているように感じるのだ

(どうしたと言うのだ…)

引き寄せられる、魂の叫び

地球へと引力が自分を呼んでいる
あそこに行けば、きっと自分が満たされる気がした



「カイル…」



顔を上げるが、周りを見ても自分をそう呼んだらしき人物はいない
ブリッジでは作戦に向けて皆忙しく仕事をしている

それに今ここには自分を敬称無しで呼ぶものなどいなかった


「空耳か…?」


どうやら、最近は忙しくて無理をしたのが原因だろう
幻聴など…馬鹿馬鹿しい

けれど、その声は何処か愛しさと懐かしい響きを自分の中に残していく