幕末珍道中





カイル
「イル・バーニ、お前は私の魔力を信用していないのか?」

イル
「・・・・・。」

カイル
「ならば、お前も来い!」

イル
「は?! ・・・御意。」



ヒッタイト帝国後宮。


カイル
「ユーリ! ユーリ!」

ユーリ・イシュタル(以下ユーリ)
「どうしたの、カイル?」

カイル
「お前の国へいく!」

ユーリ
「えーーーーっ!! 行くって日本へ?」

カイル
「そうだ!」

ユーリ
「でも、日本に行く条件って・・・。」

カイル「お前も知っての通り、

『イシュタル』と『泉』と『高位の神官』と『服』だ。」

ユーリ
「でも、泉は・・・。」

カイル
「私自身が行くのであれば大丈夫だ。

・・・ということで、お前がこの国へ来た時きていた、

おかしなふくを貸して欲しい!」

ユーリ
「!! カイルが着るのーーーっ!!」

カイル
「・・・似合わないだろうか。」

ユーリ
「(そういう問題ではないんだけど・・・。)」



そして大神殿。

いよいよカイルとイル・バーニは出発!


カイル
「準備はよろしいかな?・・・イル・バーニ。」

イル
「・・・・・・・御意。」

カイル
「では、行ってくるぞ、ユーリ。」

ユーリ
「気を付けてね、カイル・・・。

(大丈夫かな・・・。カイルのネルシャツ、イル・バーニのダウンジャケット姿・・・。)」



展開が早すぎるが、

カイルとイル・バーニは『ニッポンの泉』に到着するのだが・・・。


ドターーーンッ! カラガラーーン! ツルーーン!! 

カポーーーーン!!!


カイル
「ううっ・・・、いてて・・・。

頭を思いっきりぶつけてしまった・・・ここは? イル、大丈夫か?」

イル
「・・・私は何とか大丈夫です、陛下。」

カイル
「イル、この場所がどこだか分かるか?」

イル
「さあ、そんなことは知りませんね。

陛下に分からないのに私に分かるはずがございません。」


カイル「・・・・・・・・・・。」

イル「それにしても変わった泉ですね。温かい上に何か人工的な物を感じます。」

カイル「ふむ・・・、確かに変わった泉だな。よし! とりあえずここを出よう!

 今の音で誰かに気が付かれたかもしれん!!」

イル「そうですな。」



妻「あなた、今の大きな音はなんでしょう?」

夫「むむっ!! 風呂場の方角であったな? 

大きなねずみかもしれん!」

妻「嫌だわ、あなた・・・。見てきてくださらない?」

夫「・・・・・お前が見に行け。」

妻「!!!(怒)」



しぶしぶ見に行く妻。風呂のドアを開ける。

得体の知れない外人が五右衛門風呂の中に仲良く入っている・・・。


妻「??、!!!!・・・・・。」

カイル「・・・・・・・メルハバ?」

妻「キャーーーーーーーッ!!」

イル「説明しても無駄のようです、カイル様! ここは撤退しましょう!」

カイル「了解!」


ヒッタイト軍、一時撤退・・・・。



カイル「ハア、ハア・・・。

急いで逃げて来たからどこだか分からなくなってしまったな?」

イル「急いで逃げてこなくても、状況は変わらなかったと思われます、陛下。」

カイル「・・・・そうだな。とりあえず、あの丘の上から町全体を見てみないか?」

イル「御意。」



丘の上に登る二人。


カイル「どこなんだーーーっっ!? 

ここはーーーっっ!!」


     カイルたちはほっといて、読者だけに特別に教えよう。
     ここは京都。19世紀、幕末の京都である。
     21世紀の地名でいえば、日本の近畿地方あたりにある。
     それでも分からない読者には、仕方がないので日本地図を開いてもらおう。


イル「・・・・・もしかして、これがやりたかっただけなのでは? ・・・陛下。」

カイル「・・・・・。」



しばらく町を眺める二人。


カイル「とにかく、ここにいても仕方がない。町に下りてみないか?」



イル「私もそう思っておりました、陛下。」

町にやってきた二人。木で出来た小さな家々。

着飾った女達や、威勢良く働く男達、子供達が遊ぶ声が聞こえる。

賑わった雰囲気。・・・だが。

カイル「おお! 本当にユーリがたくさんいるな、イル・バーニ!!」

イル「外人に日本人の見分けはつかない、と言われておりますからな。」

カイル「なぜ、お前がそんなことを知っている?」

イル「世の中には私の知らないことはないのですよ・・・。」

いつの間にかイル・バーニの手には『1864地Xの歩き方(幕末京都編)』が握られている。


浪人「天誅!! 尊皇攘夷! 夷狄排除ーーーっ!!」

イル「陛下!!」

カイル「どいてろっ、イル!! お前の知略は認めるが、剣ではまずユーリにも勝てんぞ!」


キィーーーーンッ!!


激しいつばぜり合いの音! 剣の腕ではどうみてもカイルのほうが上・・・・・だが。


カイル「(なんだ、こいつ? いや、剣の腕はたいしたことはない。

・・・だが、この鉄剣は? 


・・・くっ!! 我がヒッタイトの鉄剣が全く通用しない! ・・・このままでは!!)」


と、そのとき突然、男が乱入!!


沖田総司(以下沖田)「新撰組一番隊組長、沖田総司参るっ!!」


キィーーーーーーンッ! ズバッ!!


沖田総司と名乗るその男の強いこと、強いこと!


沖田「危ない所でしたね。お怪我はありませんか?

 ああ、この人のことは心配ありません、死んでませんから。

こんな所で立ち話も何ですから、屯所のほうへ来ませんか? 茶菓子くらいだしますよ。(^o^)」


背は高いがヒョロヒョロしていて、妙にニコニコしている。・・・信用できるのか?


イル「ついていってみましょう、陛下。被害を加える気はないようです・・・。」


そっとカイルに耳打ちする、イル・バーニ。


カイル「そうだな・・・、助けてくれたようだし、礼をせぬと我がヒッタイトの威信にかかわる。

しかし、ユーリはニッポンは安全な国だと言っていたぞ! 

こんなことになるのなら、ミッタンナムワあたりを同行させたほうが良かったかな?」


イル「そんなことは知りませんね。

陛下が、日本に行きたい、などとおっしゃらなければこんなことにならずにすみました。」

カイル「・・・・・。」


そうこういっているうちに新撰組屯所へ。



沖田「土方さーーん、土方さーーーーんっ!!」

土方歳三(以下土方)「聞こえているぞ、総司! 

・・・んっ? なんだそいつら?」

沖田「さっき会ったんですよ。」

土方「・・・異人じゃねえか?」

沖田「あ、本当だ! 気付きませんでした!(^o^)」


カイル「・・・・・。」

気付かなかったって・・・、沖田さん、あんたいったい・・・。



土方「俺たちは『佐幕攘夷』の集団だ。

分かっているのか?」

沖田「細かいんだからー、土方さんは。

長州浪人の捕縛に協力してもらったんですよ、ね?」

カイル「協力したというか・・・・。」


イル「・・・・・。」

土方「・・・・・。」


イル・バーニと土方はお互い胡散臭そうに相手を見極めている・・・。


沖田「うわーっ、二人とも同じって感じ!」



沖田「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね。

私は沖田総司と申します。」

カイル「ヒッタイト皇帝、カイル・ムルシリ。こちらは、イル・バーニ。」

沖田「蛙虫取さんと入婆尼さんですかー。

異人さんの名前は変わっていますねー。」

カイル「・・・・・。」



平隊士「副長!!」


土方の前に走ってくる平隊士。そして、片足をついて頭を下げる。


平隊士「さっき一番隊が捕らえてきた長州浪人が、

古高俊太郎の潜伏先を吐きました!」

土方「何! 総司!!」

沖田「はい、はーい、一番隊の皆さん、でますよー! 

・・・すみませんね、蛙さん、入婆尼さん。

ゆっくり茶菓子を食べている時間がなくなってしまいました。

屯所の中でも見ていってくださいね。」


一番隊をつれて屯所を後にする沖田。



土方「お前達の腕が見たい。


異人どもの剣術を知っておく必要がある。

道場の方へ来ないか?」

イル「ヒッタイトの剣術を知っても、この国へ来ているアメリカやイギリス、

フランスには通用しないと思われます、閣下!(土方のこと)」

土方「なぜそう思うのだ?」



イル「私どもは先ほど不逞浪人と斬り合った際に、剣術はともかく

剣の性能の部分で全くかないませんでした。

恥ずかしながら製鉄技術はこちらの国の方がうえだと・・・。

ですから、この国以上の技術力を持つ欧米諸国に

かなうはずもありません。

恐れながらこれからは剣の時代ではないのではないかと・・・。」

カイル「・・・だからなぜお前がそんなことを知っている・・・。」

イル「・・・・・。」

土方「なかなか物をはっきり言う奴だな。入婆尼と言ったか?」

イル「・・・・・。」

土方「確かにお前の言うことも一理あろう。

だが、私はお前の国の剣術が見たいのだ。」

イル「・・・御意。」

土方「・・・その前にそのおかしな服を着替えてもらおう。」


カイルとイル・バーニはユーリのネルシャツと

ダウンジャケットのままであった・・・。」


カイル「・・・・・変?」

イル「・・・・・。」



新撰組屯所内、和服に着替えたカイルとイル・バーニ。


カイル「やはり、私がやるのだな?」

イル「当然です。私は剣ではユーリ様にも勝てませんから。」

カイル「・・・・・。」



すでに道場の真ん中で愛刀を抜いている土方。


土方「いいか、立ち合いは一対一の一本勝負とする。

実線では常に一本勝負だからな!・・・どちらが立ち合うのだ?」

カイル「・・・私が。」

イル「・・・陛下。」


イル・バーニが耳打ちする。


イル「陛下、土方とやらは天然理心流という

剣法の目録保持者のようです。」

カイル「モクロクとは何だ?」

イル「分かりやすく言えば免許のようなものです。」

カイル「メンキョ?・・・ああ、ライセンスだな?」

イル「御意です、陛下。そひて得意技は突き。お気を付けください。」

カイル「了解!」



土方「どこからでもかかってきな!」


余裕の土方。

すでに道場の真ん中に陣取り、正眼に構えた刀を

左、右に揺らし、さそっているようだ。


カイル「・・・私は帝国一の軍人だ。

ミタンニやエジプト、数々のオリエントの強豪と戦って来た。

ラムセスとも一対一で立ち合った・・・。この勝負、勝たしてもらう!!」


カイルも腰を落として、右足を前に出し、

左手を鉄剣の鞘に手をあてたまま、右手で柄を握る。

居合いの格好だ。


土方「フンッ、そんなことを言っていられるのも今のうちだ、

覚悟しやがれー!!」


副長の責務も忘れ、完全に日野の暴れん坊将軍に戻ってしまった、土方。

あっという間にカイルの懐に近付いてくる。

そして、嵐のような凶暴な突き!


カイル「(むっ、出来る!)」


土方の強烈な突きを紙一重でよけ、土方の刀を払う!
 
そして、ささっと後方に下がり間合いを取る。


土方「やるじゃねぇか。だが、押されてるんじゃねぇか?」

カイル「ニッポンの鉄剣は長いからな・・・。だが、これからだ!」


じり、じり、とカイルが右に動けば、じりり、じりりと土方が右に動く。



土方「でやーーーっ!」

カイル「やーーーっ!!」


気合の声を発し、同時に掛けよりぶつかり合う二人。


キィーーーーーンッ!!


激しいつばぜり合い・・・・・その時!


バキンッ!!


カイルの鉄剣が折れた・・・・・。



土方、愛刀、和泉守藤原兼定を投げ捨てる!


カイル「!!」

土方「日本刀は俺の功績じゃあねぇ!! お前を倒すのに武器はいらねぇ!!」

カイル「カッコつけたこと後悔するなよ!」


いきなり強烈なタックルをしてくる土方!


カイル「くそっ!」


たまらず倒されるカイル! 

すかさず一緒に突っ込んできた土方の首を締め上げる!


土方「ぐっ・・・・・!!」


  ただ負けたくない!!
     この精神と肉体が・・・・・。
     この男より先に倒れるのは我慢できない。



イル「・・・・・(どこかで聞いたセリフだな。)」



沖田「土方さーーーん、土方さーーーんっ!!」


突然、道場に走って入ってきた沖田。


土方「えっ、総司!?」


土方が、沖田に気を取られた一瞬、カイルの強烈なパンチがヒット! 

土方、我慢できずに倒れこむ!



     この男より先に倒れることは我慢できない・・・・・!!
     負けたくない、
     この男には負けたくない!!



沖田「土方さん、古高俊太郎、捕縛しましたーーーっ!!」


カイル「来い!! いくらでも相手になってやる!!」

土方「!!」



     この男より劣っているとは思いたくない。
     この男より先に倒れるのは我慢できない・・・。



カイル「来い!!」





土方「・・・・・行くぞ、総司! 古高の所へ案内しろ!!」

沖田「はーーーーい!」


カイルに背を向け、さっさと出て行く土方。


イル「陛下、我々もそろそろ戻りましょう。

土方歳三にお勝ちになったのですから、もう十分でしょう。」

カイル「勝ってはいない。」

イル「は?」

カイル「あの男が最後まで立場を忘れて殴りかかってきたら、

こころおきなく勝ち誇ってやれたのに・・・。
あの男は要の所で感情より理性を・・・・・、

ああ、もう! 以下略!!」

イル「・・・・・。」


イル「ところで沖田さん。」

沖田「何でしょう、入婆尼さん?」


沖田が振り返り、ニコッと笑う。


イル「私達はこの辺りで失礼いたします。

ところで、この辺りに室内にある温かい泉はご存知ではありませんか?」

沖田「えっ、もうお帰りになるのですか?

・・・温かい泉ねぇ・・・、お風呂のことかな?

  お風呂なら八木さんの家で借りるといいですよ。すぐ隣ですから。」

イル「ありがとうございます、では。」



沖田「あっ! ちょっとお待ちください。」

イル「何か?」

沖田「土方さんがこれを・・・。」

カイル「!!・・・・・これはっ!!」


史上最強も鉄剣・・・日本刀、和泉守兼定!!・・・・・の写しである。


カイル「・・・これを私に?」

沖田「そう、折れた鉄剣の代わりだって。

けっこう気に入られちゃったみたいだね、土方さんに。」


沖田はカイルに「兼定の写し」を渡しながら、ニコッと笑う。


沖田「茶菓子を食べられなかったなあ・・・。また絶対来てくださいよ。」

カイル「ありがとう・・・。」

沖田「じゃあ、また・・・。あっ、土方さん、待ってくださいよーーーっ!」


慌ただしく走って道場を出て行く沖田。



カイル「これがニッポンの鉄剣か・・・・・。」


改めて日本刀をじっくり見る。ものすごい製鉄技術だ。波紋が美しい・・・。


イル「・・・そろそろ行きますか。」

カイル「そうだな・・・。」


道場を後にし、ゆっくりと歩いていく・・・。



八木邸、風呂場にて。


カイル「準備はよろしいかな、イル・バーニ。」

イル「・・・陛下、ここは本当にユーリ様の国、

いや、正確に言えば、ユーリ様の時代だったのでしょうか?」

カイル「・・・?? 何を言っている、イル・バーニ。

帝国一の高位の神官である私が間違えるはずがないではないか!」

イル「・・・・・・・・ですが、陛下。」


イル・バーニの手には、まだ『1864年版、地Xの歩き方(幕末京都編)』が握られている。



カイル「そんなことは帰ってユーリに聞けばわかる、もう行くぞ!」

イル「・・・・・御意。」



再びヒッタイト帝国大神殿へ帰ってきた、カイルとイル・バーニ。

大神殿ではユーリと三姉妹が待っている。


ユーリ「カイルっ!!」

カイル「ユーリ!!」


駆け寄って抱き合う二人。


ユーリ「大丈夫だった?」

カイル「もちろんだ!! Samurai、Geisha、Ninjya、Manga、Play station・・・だな?」

ユーリ「・・・カイル? 具合悪い?」

カイル「??」



それから、寝所でじっくり話した(?)カイルとユーリ・・・。

カイルが自分のミスに気が付いたのは、それから一時間後であった・・・。



     (完)



ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。

「ちょっと・・・イメージが・・・。」

と思った方、もちろんたくさんいらっしゃると思いますが、

ここはご愛嬌で笑って許してくださいね。(^o^;)

『天は赤い河のほとり』(篠原千絵)、

『新撰組秘剣伝』(瑞納美鳳)、大河ドラマ『新撰組!』でこうなりました。

作中、「カイル」を「蛙」と呼んでしまうシーンがありますが、あれは実話です!

  私がカナダ人のカイルさん(当時24)をそう呼びました・・・。

良ければ感想をBBSへ書き込んでください。・・・うれしいです・・・。(v v)